第5回目は、深海合唱団の牧野くみが、漁業コンサルタントの舘岡志保さんにインタビュー。後編では、漁師さんの現状や舘岡さんご自身のことについてお話を伺います。
前編「漁業の6次産業化」はこちら
舘岡志保さん
プロフィール
Shiho Tateoka
東京で看護師として勤務後、水産業界に縁があり転職。北海道八雲町で漁師の営業・広報や、漁師団体の発足、加工品のアドバイザーなど漁業の6次産業化に取り組む。Navire noir代表、噴火湾鮮魚卸龍神丸営業・広報マネージャー。
https://www.funkawan-marche.com/
牧野くみ
Kumi Makino
漁師さんの知らない世界
くみコロナ禍で漁師さんの収入が減っていると前回伺いましたが、ECサイト以外にやれることってあるんでしょうか?
舘岡漁師しかしたことがなく、他の産業や仕事について知らない人がほとんどなので、新しいことをするのが難しいのが現状です。
舘岡漁師以外の仕事を経験している人や、外の世界を知っている人はいろいろな視野を持っている分、動きが早いし、コロナへの対応もできていると思います。
くみ他の業界を知っているって大事なんですね。
舘岡うちの夫がいい例なんですが、以前、料理店に直接販売するようになったとき、お店から「使い物にならない」とクレームが来たことがありました。魚を獲るのはプロですが、そこから先のことは素人だったんです。
くみ梱包とか、物流の部分って普通漁師さんはされないことですよね。
舘岡はい。そこで、自分が送った魚がどうやって調理されて、どうやって食べられているのかを見てもらいました。自分がとった魚を丁寧に扱って料理にして、それをおいしそうに食べてくれる人がいることを実感したんです。「売ってやってる」から「買ってもらっている」という意識に変わったんです。
舘岡そこから、網から落ちた魚も干物に使うようにしたり、ちょっとでも使えそうなものがあれば、お客さんにLINEで「こういった料理に使えないか」と連絡したり。コミュニケーションを楽しむようになりました。
くみすごい変化です。具体的に相手の顔が見えることは大きいですね。
舘岡「おいしい」という一言を聞けるだけでも、モチベーションが上がりますよね。次に「こういうものを作ってみよう」「こういうものが喜ばれるだろうか」といろいろな楽しみが出てきます。
舘岡魚を獲るだけではなく、漁業全体の価値を高めるのが漁師の仕事だと思います。
くみ魚ってその地域や食文化などともつながっていますよね。
舘岡そうですね。自分の息子が「漁師になりたい」と言ったときに応援できるように、漁業・水産業が残せたらと思っています。
女社会から男社会へ
くみ舘岡さんは以前、東京で看護師をされていたんですよね?
舘岡はい、在宅医療の看護師をしていました。
くみ医療と水産業って全然違う世界ですが、共通点などはあるんでしょうか?
舘岡看護の現場では、患者さんを中心にお医者さん・看護師・ケアマネージャーなどがチームとして同じ目的をもってやっていく必要があり、そこは水産業とも共通しています。
くみそうなんですね!
舘岡漁師や水産関係者、消費者、企業、行政がチームになっていないと、海も魚もダメになってしまうんです。
漁業と女性
くみ漁業に携わる女性ってどのくらいいるんでしょうか?
舘岡水産加工の現場にはまだ女性がいますが、漁師だと5%にも満たないくらい少ないですね。高齢化で就業者数が減っている中で、女性が必要ですが、まだ男性社会なので女性が入りにくい。
舘岡代々漁師という夫の家に嫁いで「一緒に船に乗るか、家で帰りを待つか」という奥さんが多いので、私は「漁師の嫁らしくない」と言われました。田舎だと「嫁は目立つな、出歩くな」と言われます。
くみ私も田舎の出身なので、そういう雰囲気わかります。
舘岡私は女子高から看護学校、看護の現場と女性社会で生きてきたので、水産の現場は逆です。「女のくせに」と言われて「世の中の女性はこんな扱いだったのか?」って思いました。
舘岡昔はどこでも同等の扱いで、なぜ女性活躍が叫ばれているのか分からないくらいでしたから。でも「女は出歩くな、口を返すな」という世界を目の当たりにして、女性活躍が叫ばれる理由を実感しました。
くみすごいギャップですよね。今はどうですか?
舘岡今も、漁師で自分の嫁が世に出ることをよく思っていない人は、いると思います。でも、女性であるほうが魚を売ったり、販路を広げたりしていく上ではメリットが大きいと思います。私は仕事をしていく中で、だんだん「女のくせに」と言われることもなくなりました。
くみ6次化(※)やデジタル化が進めば、女性や若い人が関われる機会が広がりそうですよね。
※6次化…前回の記事「漁業の6次産業化」はこちら
漁業コンサルタント・舘岡志保さんに聴く(前編)「漁業の6次産業化」
舘岡私がやっている仕事=コンサルタントや営業・広報ができる人が漁師の近くにいれば、チャンスは広がります。もっと、そうした仕事の重要性を知ってほしいです。
当たり前ではない漁師の仕事
くみ「漁業は農業に比べると安定していない」という話を聞いたことがあります。
舘岡そうですね。漁師は沖に行って帰ってこないこともあります。「骨が帰ってきただけでも儲けもんだ」と聞くような世界です。
くみ危険と隣り合わせのお仕事ですよね…。
舘岡北海道では漁師死亡のニュースが流れたりして、そういったことがある度に、自分の夫にもちゃんと帰ってきてほしいと思います。
くみ東京ではあまりそういったニュースが流れないので忘れがちですが、お魚を提供してくれる漁師さんに本当に感謝です。
舘岡そうですね。魚を食べる人たちにはもっと漁師のことを知ってもらいたいです。
くみそんな危険なお仕事をされている漁師さんに新しい取り組みをお願いするのって、自分だったらちょっと気が引けてしまうなと思ってしまいました。
舘岡そういう時、私は彼らが楽しいと思える方法を考えていく必要があると思っています。実際、夫もいろいろな業種の人と交流することで刺激をもらって、仕事を楽しんでやっています。
舘岡楽しんでやって、その結果、収益につながればと。100年先も漁業や海がちゃんと残って、その先に子どもたちの笑顔があればいいなと思います。
くみお話を伺って、私も漁師さんや一次産業をもっと応援できればと思いました!今後もみなさんの声が伝えられればと思います。漁師体験も行きたいです!ありがとうございました。
舘岡ぜひ!来てくださいね!
噴火湾マルシェ
北海道の海の幸と八雲町の素晴らしさを伝えるサイト。
漁師さん直送の海産物が買えるオンラインショップも。
https://www.funkawan-marche.com/
水産女子とは?
まだまだ男性社会である漁業・水産業の現場で活躍する女性たちのことで、水産庁の立ち上げる「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」にメンバーとして参加し、日々の生活や仕事にまつわる情報を社会に広く発信しています。
活動を通して、女性にとって働きやすい漁業・水産業の現場改革や仕事選びの対象としての漁業・水産業の魅力向上を後押ししています。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kenkyu/suisanjoshi/181213.html