第5回目は、深海合唱団の牧野くみが、漁業コンサルタントの舘岡志保さんにインタビュー。前編では、舘岡さんがサポートする「漁業の6次産業化」やブルーツーリズム、水産業の現状などについてお話を伺います。

舘岡志保さん
プロフィール
Shiho Tateoka

東京で看護師として勤務後、水産業界に縁があり転職。北海道八雲町で漁師の営業・広報や、漁師団体の発足、加工品のアドバイザーなど漁業の6次産業化に取り組む。Navire noir代表、噴火湾鮮魚卸龍神丸営業・広報マネージャー。
https://www.funkawan-marche.com/

牧野くみ
Kumi Makino

漁業の6次産業化とは

くみ本日はよろしくお願いします!早速ですが、舘岡さんの取り組まれている「漁業の6次産業化」(以下、6次化)について詳しく教えてください。

舘岡さん(以下敬称略)通常、漁師が獲った魚は漁業組合に出荷します。そして、仲買人→卸売り市場→販売店・料理店を経て消費者に届くのですが、その間にだんだん価値が追加されて、魚の価格は上がっていきます。

舘岡でも、漁師は一番最初の段階なので収入が少ないんです。そこで私たちは、間の段階を減らして、直接消費者に届けています。

くみ1次産業=生産だけでなく、2次産業=加工、3次産業=サービスにも取り組むということでしょうか。

舘岡そうです。6次化によって、消費者はもう少し安くお魚を買えて、漁師はもう少し高く収入を得られるようになります。

舘岡さんとご主人で漁師の勇樹さん。

くみそれは素晴らしいですね。仕組みを変えるのは難しいことではないですか?

舘岡昔ながらのやり方を変えたくないという人やハードルも多くて、難しいこともありました。

舘岡 幸い、私たちが所属している落部漁業組合(※)では、販売手数料を設けたり仲買の権利を組合で持つようにルールを整備したりして、消費者へと流通させることができています。傷があったり、売り物にならないものも、干物にして販売したり、商品企画をしたりして、6次化を楽しんでやっています。

※落部漁業組合…北海道・道南八雲町に位置する噴火湾内の漁場。読みは「おとしべ」。

くみ先日、スケトウダラとネギとお味噌のセットを購入しました!魚以外の地元の食材も一緒に扱っていて、すごくいい取り組みだなと思いました。

舘岡ありがとうございます。6次化は、きっかけに過ぎなくて、最終目標としては地元のことを知ってもらいたいと思っています。6次化によっていろんな商品を発信することで、海や魚、漁業に興味を持ってもらい、最終的に買ってくれた人が土地を訪れてもらえるといいなと思います。

ブルーツーリズム

くみ観光業にも最近取り組まれているんですよね?

舘岡そうなんです。漁がない時期でも、漁師がボタンエビを取るための餌となる魚を切ったりする作業を体験してもらいました。

くみFacebook拝見しました!面白いですね!

舘岡私からすると苦痛な作業なんですが(笑)。一般の方に「エビってこんなものを食べるのか!」「漁師さんはこういったこともするんだ!」と知ってもらえました。

くみ漁師さんを身近に感じられる取り組みだと思います。

舘岡漁師と消費者がつながって、お互いのありがたみを知ってもらえたらと思います。

舘岡落部地区は車で10分ぐらいの距離に、乳しぼり体験、野菜収穫、調理体験などできる場所があるコンパクトシティです。今後は国内を少人数で旅をするマイクロツーリズムが主流になってくると思うので、それに対応した観光資源づくりができたらと思います。

くみオンラインでも行われているんですよね。コロナ禍でできることをされているのは素晴らしいです!

※ブルーツーリズム…島や沿海部の漁村に滞在し、魅力的で充実したマリンライフの体験を通じて、心と体をリフレッシュさせる余暇活動の総称。

舘岡漁の画像を見てもらったり、漁師がカメラで映しながら説明したりしました。北海道には大きい水ダコがいるのですが、それをネットから出すときのお客さんの反応が好きです(笑)

くみぜひ深海合唱団でも参加したいです!

コロナ禍と漁業

くみコロナ禍での漁師さんたちの状況を教えてください。

舘岡暗い話になりますが、近隣ではここ1~2年で10数件の漁師が廃業しました。飲食店の休業で、売り先がなく魚価が下がって漁師の収入が減ったんです。一方で、船の維持費などの経費が掛かるので、漁に出るだけで赤字です。

くみ飲食店にスポットが当たっていますが、その飲食店に商品を卸している1次産業も厳しい状況なんですね。

舘岡特に、ホタテの養殖業は3年前のホタテ大量死に加えて、コロナがあって大打撃。厳しい状況です。ステイホームが叫ばれていた時期は、生産者を守ろうとECサイトの売り上げも上がっていましたが、今はそこまでではないです。

くみいち消費者として、そういった1次産業になにかアクションできることはあるでしょうか。

舘岡こちらの発信が重要だと思います。なかなか生産者側からのSNSなどでの発信は難しい部分もありますが、大きいメディアでなくても少しでも人の目に触れることができればと思っています。

くみ私たちも意識してチェックしたいです。スーパーへの売り上げなどはどうですか?

舘岡うちはスーパーに卸してはいないのですが、仲買さんの話によると人気のある魚種とそうでないもので、偏りがあるようですね。

舘岡鮭やマグロ、ぶりなど安定して人気のある魚は、値段は変わっていないそうですが、それ以外は値段が下がっているようです。

くみ消費者としては、以前は手が出ないような高級魚がお手頃な値段で食べられるのはうれしいですが、生産者の人にとっては違いますよね。

舘岡今を凌ぐ分にはそれでいいかもしれないですが、コロナ後に元の値段に戻ったら買ってもらえなくなるのでは、と危惧しています。

くみ私たち消費者も、正しい価値や価格の妥当性について認識し、判断する基準を持つべきだと思います。

消費者が求めている情報

舘岡スーパーの野菜コーナーだと生産者の名前や顔が書いてあるポップがあるのに、鮮魚コーナーにはあまりないですよね。

くみ確かに。お肉や野菜には書かれているのに、魚には○○県産としか書かれていないですね。

舘岡「北海道産」と書いてあってもオホーツクなのか噴火湾なのかで全然違います。誰が獲った魚なのか、誰が生産した魚なのか。トレーサビリティ(※)が確保されることは、付加価値になると思います。

※トレーサビリティ…追跡可能性。品質の信頼のため、いつ誰がどこで作ったかを明確にしようとする概念。

舘岡「養殖」も抗生剤が入った餌を使っているところあれば、そうではなく自然のものを使っているところもあるので、鮮魚売り場にもそういった情報があると良いと思っています。

くみ農業や畜産業と水産業でそういった差があるのはなぜでしょうか?

舘岡自由に売れる産業と規制がある産業の違いだと思います。漁師は自分たちでスーパーなどに営業するノウハウも持っていません。農家の方たちはそういった情報を交換するネットワークが強いです。

くみ自分が魚を取る場所を教えたくない漁師さんもいる、と聞いたことがあります。

舘岡確かにそういう気質もあるかもしれないですね。あと、売る側が消費者のニーズに気が付いていないのかもしれないです。

舘岡以前、函館のスーパーで生産者の顔があるポップ付で300円高い魚と、何も書いていない魚を販売してみたことがあったんです。そうしたら、300円高い方が売れました。そうした情報を消費者は求めているんです。

くみ私もそうした情報があった方が安心ですし信頼できるので、多少高くても買うと思います!

舘岡ただ、仲買人を介している今の販売ルートだと、誰が獲ったか分からない形で卸されています。これも、6次化が必要な要因でもあります。

くみ生産者の発信や消費者の意識だけでなく、中間で関わる人やスーパーなど販売している側から消費者に伝える努力も必要なんですね。

舘岡漁業組合や漁師だけではできないことですね。関係者の協力が必要です。

後編「漁師の嫁ということ」へつづきます。
8月10日(水)公開予定です、どうぞお楽しみに!

噴火湾マルシェ

北海道の海の幸と八雲町の素晴らしさを伝えるサイト。
漁師さん直送の海産物が買えるオンラインショップも。
https://www.funkawan-marche.com/

海の宝!水産女子の元気プロジェクト

水産女子とは?

まだまだ男性社会である漁業・水産業の現場で活躍する女性たちのことで、水産庁の立ち上げる「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」にメンバーとして参加し、日々の生活や仕事にまつわる情報を社会に広く発信しています。
活動を通して、女性にとって働きやすい漁業・水産業の現場改革や仕事選びの対象としての漁業・水産業の魅力向上を後押ししています。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kenkyu/suisanjoshi/181213.html