歌を始めたのは、24歳の時でした。
色んな事がうまくいかず挫折して、自分にはなにもないと思っていたころ。
焦る気持ちにすら追いつけず、自分の気持ちは誰にも分からないと
勝手に孤独になっていた毎日でした。
「自分が好きですか?」
「どんな自分になりたいですか?」
「あなたの興味は何ですか?」
そんな問いを避けるように過ごしていた時、ある人との出逢いがありました。
どんな人にも真っ向からぶつかる、少しやんちゃな子。
だけど内面に繊細さを併せ持った不思議な女の子。
彼女は歌を歌っていました。
鼻歌で作ったメロディーに歌詞を付け、ちょっと聞いてみてよとタバコの火を消し、ギターを持ってすらすらと奏でていく。
その姿はとても眩しく見えました。
知り合って間もなく、彼女は自分のお店を開きました。
私はたびたびお店に足を運んで、彼女の歌を聴きました。
「やりたいことができるまで、この店で働いてみない?」
この彼女の言葉が、自分の心で道を選ぶことができた最初のきっかけだったかもしれません。
あの子みたいに、何かを始めてみたい。
あの子みたいに、歌ってみたい。
少しだけ、自分が楽しみになれた気がしました。
音楽を通じてたくさんの人と出逢い、
年齢を重ねたいまになってようやく気が付きました。
あの子がひとりお店を切り盛りする中で、人を雇うという決断の背景には、
現実に対する大きな覚悟があったこと。
私はとても大きな気持ちをいただいていたのだということ。
自分を知るということは、人を知るということなのかなと
いまは何となく感じています。
深海合唱団には、海や音楽が大好きなメンバーが集っています。
だけど、もともとの音楽スタイルも、個性もさまざまです。
楽曲を通して、文章を通して、
海にまつわる活動を通じて。
深海合唱団を知ってくださった方にとって、
誰かを知る、何かを知るきっかけに、
また日々の少しの楽しみになることができたら嬉しいです。
これからの出逢いが
素敵なものになりますように。
写真 / 松永奈々