そういえば小さい頃、宝石や鉱物が好きだった。
田舎町からたまに出かける親の買い物のデパートでは、アクセサリーのショーケースをずっと眺めていた。
価値はわからないなりに、きれいだし、
地球がぎゅっと凝縮されたようなものを身に付けることは特別なことだと感じていた。
大学進学を機に上京し、音楽にうつつを抜かしていたら、
同じバンドをやっていたみんなが当たり前のように就活を始めたことにとても驚いた。
これからもずっとみんなで一緒にうつつを抜かせるものだと思っていた。
アルバイトこそしていたけれど、あまりに世間知らずで、正直企業で働くというイメージが全く湧かなかった。
昔テレビでサザエさんを見ていたけれどオフィスらしき建物が地元の街にはなかったので、
マスオさんや波平さんが電車に乗って何しに行っているのか本当にわからなかった。
しかしそこで急に不安になったから、私も就活を始めてみたという主体性の無さ。
音楽への気持ちを貫く程の自信も覚悟もなかった。
かと言って長期間継続してやりたい仕事も特にない。
似合わなすぎるリクルートスーツを渋々着て求人を漁っていた時、
「面接は私服でお越しください」との募集を発見した。
意気揚々と応募しありがたいことに合格した。
そこはアクセサリーの製造販売会社でした。
一応はアパレルと分類される業種の華やかなイメージとは裏腹に、
ネックレスの留め具の小さい穴に糸を通して値札を付けるような裏方作業、
予算に達しない時のピリッとした空気など、少しずつ社会を知り学ばせてもらった。
就活をしていた頃を思い出すと、
他にも服装や髪の毛の色が自由な職業は探せばあったと思う。
では突き動かされたものは一体何だったんだろうと改めて考えてみると、
当時は諦めかけそして今再び取り組んでいる音楽活動も、アクセサリーも、
なかったら直接命に関わるような必需品でこそないものの、
人の生活や気持ちを豊かにする力がある。
そんな仕事を、モラトリアムが切れる寸前必死に居場所を探している最中、
潜在的に求めていたのかもしれない。
大切な人へ伝えたい想いや何かを大事にする気持ちは、
詞を書き歌を歌う時にも大好きな人に贈るアクセサリーを選ぶ時にも共通しているように思う。
時を経て、とある水産関係の展示会に訪れた時のこと。
水産加工品や漁業で使う道具や機械のブースが多数を占める中、
貝を磨いて作ったアクセサリーを紹介しているブースがあった。
「材料は”夜光貝”という沖縄で採れる貝で、
すっごくでっかくて、中身は食べられて、
伝統工芸の螺鈿細工などにも使われていて、
岩手県にある螺鈿細工を見に行くのが目標」と、
沖縄から来たという私と年の近いお姉さんが初対面の私に生き生きと語ってくれた。
私はすっかりそのお姉さんのファンになって、その場でSNSで連絡先を交換した。
私はあなたに会いに沖縄へ行くのが目標です。
店頭に立っていた時はジャラジャラと自社の製品を身に付けていたのに、
最近はピアノを弾くので指輪やブレスレットの類はほとんど付けないし、
毎日付けていたピアスは退職してからほとんど付けなくなり、
気づけばいつの間にかピアスの穴が塞がっていた。
身に付ける機会やアイテムは一時期より少なくなったけれど、
差し込む光の角度によって表情を変えるアクセサリーを見ているのはやっぱり今も好きで、
その気持ちはショーケースを眺めていた子供の頃と変わらない。
むしろ年齢や経験を重ねた分、
作り手の想いやストーリーが詰まっているものに出会えた時の喜びを、
以前よりも大きく感じられるようになったような気がする。
カエルデザイン
カエルデザインは、様々な障がいを持つ人たちとともに、廃棄され海岸に漂着した海洋プラスチックやフラワーロス(廃棄花)などを回収し、アクセサリーなどに加工する、アップサイクルブランドです。
https://kaerudesign.net/
写真 / 松永奈々