2025年12月21日の巡り巡る音楽祭「冬」に寄せて、”巡り巡るマガジン”が誕生!
最終回の今回は、音楽祭にて、ワークショップ「海洋ゴミを宝物に生まれ変わらせよう!」やアップサイクルアートの展示を実施してくださる水棲生物画家の繁田穂波さんにお話を伺いました。

繁田穂波氏
プロフィール
Honami Shigeta

命の循環をテーマに水棲生物を用いて、生命の強かさや儚さを描く。絵具の層を彫って描く流線は「その生命から感じ取る息吹」を表現している。不要になったブイ(浮き)にアートを施すことで、新しい命を吹き込み生まれ変わらせる アップサイクルアートにも精力を注いでいる。
https://x.com/shige_hnm

牧野くみ
Kumi Makino

生命へのまなざし:アーティスト繁田穂波の原点

牧野繁田さんが、生き物、特に水棲生物に興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか。

繁田さん(以下敬称略)私が育ったのは、青森県のお寺が軒を連ねる「寺院の町」でした。日常的にお墓や霊柩車を目にする環境で、「生と死」が交錯するような街です。 なので、人間も含む生き物が生まれ、死んでいくという循環を、幼い頃からごく自然に考えるようになりました。また、豊かな自然に囲まれていたので、生き物たちがその役割を終え、次のものへと姿を変える瞬間を数多く見てきました。この原体験が、私の作品の根本にあると思います。

牧野アートを志すより先に、そうした生命に対する感覚が芽生えていたのですね。

繁田そうですね。おそらく、感覚の方が先にあったと思います。それに加えて、家庭環境も大きかったですね。私の家は、2階がテーラーハウス、1階が美容院という職人気質の一家でした。なので、何かを「つくる」ことが当たり前の環境で育ちました。そのため、アートの美しさより先に、物心ついた頃から、技術的なことや手を動かして何かを生み出すことがごく身近にありました。

牧野手を動かすものづくりが身近にあったんですね。

繁田小さいころから、ファッションや針仕事に興味があって、器用さが培われていきましたし、美術館やアートにも触れる機会も多かったです。

アートの進化:海洋ゴミとの出会いとアップサイクルへの挑戦

牧野スクラッチアートの活動に加えて、ブイ(浮き)を使ったアートもされていますが、これはどのような経緯だったのでしょうか。

繁田スクラッチアートの活動と、ブイを使った活動を始めたのは、どちらもコロナ禍の2020年で、ほぼ同時期でした。絵画制作と並行して海洋環境について学ぶ中で、大きな衝撃を受けた出来事があったんです。それは、ボランティアや漁師さんたちが懸命に拾い集めた海洋ゴミが「産業廃棄物」に分類され、処分に高額な費用がかかるため、海を綺麗にしようとしている人々にとってあまりにも負担がかかっている、という現実を知ったことです。

牧野それはショックですね。その現実が、直接的なきっかけになったのですね。

繁田はい。そこから試作を始めたのですが、海洋プラスチックはこれまで扱ったことのない素材でした。いわゆる画材とは違い、どんな付着物があるか分からず、人体への影響も未知数です。その安全面を、専門知識のない「素人」である自分がどうクリアするかが大きな課題で、多くの試行錯誤を重ねました。

牧野私たちもプラスチックを拾って、展示をしたことがあって、手で触るにしても何がついているかわからないこともあるので、とても気を使いました。繁田さんも試行錯誤されてきたんですね。

繁田そうですね。現在は身につけるものではなく、装飾品としてのオブジェとして制作するというスタイルに落ち着きました。自分の作風やコンセプトと調和させながら、この問題にどうアプローチできるか、本当に悩み抜いて今の形にたどり着きました。

海からのメッセージ:海洋ゴミの現実と漁師たちの声

牧野アートの素材となるブイは、どのようにして入手されているのですか?

繁田Facebookで「ゴミを拾っています」という投稿を見つけて直接連絡を取ったり、繋がりのある漁師さんから「ブイが大量にあって困っている」という声を聞いて、送ってもらったり、自分でビーチクリーンをしたりすることもあります。

牧野ブイは漁師さんが使っていたものなんですか?

繁田基本的に、漁師さんご自身が使っていたものではなく、多くは海外から浜に漂着してしまったものを回収してくださっているんです。

牧野海外からの漂着物となると、処分にも困ってしまいますよね。

繁田そうですね。漁師さんの生活にも影響を与えています。海の家などを経営されている方も多くいらっしゃって、大量のゴミは景観を損ない、観光業にも打撃を与えます。なので、自分で回収されている漁師さんも多いです。また、ブイだけでなく、割れた瓶や釣り針といった危険なゴミも多く、砂浜に潜ってしまうと回収が非常に困難で、人が怪我をするリスクも常にあるんです。

牧野それは、大変ですね。ブイってどのくらいの量やサイズのものを回収されているんですか。

繁田一番大きいもので、直径80cmにもなる巨大なブイを送っていただいたことがあります。バスケットボールよりもはるかに大きくて、さらに漁師さんから「まだ5、6個あると聞いてびっくりしました。

牧野それは、困っちゃいますね!でも、アートとしてのインパクトも大きそうですね!

繁田そうですね。自分の作品だけだと、使いきれないことも多いので、オブジェとして寄付したり、他にも活用する方法を考えています。自分たちの生活を豊かにするために生まれてきたはずなのに「海洋ゴミ」と言われてしまう。新しい役目を与えて命を吹き込む活動として考えたいと思います。今回のイベントでも、安全に加工しているものをお持ちしますので、一緒に生まれ変わらせてもらいたいです。

牧野私たちもぜひ参加します!ワークショップではどのようなものをお持ちいただけるのですか?

繁田ワークショップでは、テニスボールぐらいのものをやります。細長いもの15cmぐらいの筒になっているものです。市販のラムネケースぐらいのものもあります。好きなブイを選んで、ペイントしていただけます。

牧野クリスマスのオーナメントにも丁度良いサイズですよね。楽しみです!

世界の視点:オーストラリアに学ぶ環境問題へのアプローチ

牧野ところで、海外にもいかれていたんですよね。

繁田昨年の8月から半年、オーストラリアの3都市にいました。

牧野オーストラリアでの生活を通じて、自然環境に対する日本との違いをどのように感じましたか?

繁田日本とオーストラリアでは、自然環境へのマインド、アプローチが全く違うという印象でした。日本の強みは、「サステナブル」や「SDGs」といった言葉を広め、人々の意識を高める宣伝能力にあると思います。一方、オーストラリアの強みは、環境に配慮した行動が当たり前になるような、法整備された社会システムを構築している点です。オーストラリアの人々にとって、生まれたときから自然が周りにあったので、自然を大切にすることは「いちいち言うまでもない」ことなんだと思いました。

牧野そうなのですね。

繁田オーストラリアのシステムは非常に合理的でした。 国が指定したゴミ箱を購入することが義務付けられてるんです。分別は基本的に「リサイクルできるもの」「燃やせないもの」「燃やせるもの」の3種類だけと非常にシンプルです。
ゴミ収集車には監視カメラが搭載されていて、分別が間違っていると家の主にメールで警告が届きます。これが続くと高額な罰金が科せられます。法整備が整ってるんです。

牧野すごいシステムですね!

写真はイメージです

繁田オーストラリアでは、ポイ捨てをしにくい環境も物理的に作り出しています。日本の「ゴミ持ち帰り文化」とは対照的に、街中には電柱と同じくらいの間隔でゴミ箱が設置されていました。

牧野日本だと良かれと思ってゴミを持ち帰りましょうと言って、ゴミ箱なくなったりしていましたが、それがそのまま海に流出したり逆効果かもしれないと思いました。

繁田ポイ捨てをしづらくする状況として、ゴミ箱にどうぞ、としている方が心理的にも良いかもしれないですよね。

牧野国としての取り組みがしっかりされているんですね。

繁田街中に設置されているゴミ箱のゴミ回収は、ボランティア任せではなく、日本の「シルバー人材センター」のような、高齢者が担う公的な「職業」になっていました。対価が支払われ、持続可能なシステムになっています。

牧野日本でもイベントのあとにゴミがたくさん出て、ボランティアの人が片付けていますが、職業として確立されている方が良いですよね。

繁田あと、ワンちゃんを飼っている方がとても多い国です。ワンちゃんのうんち袋スタンドも無料で置いてあるんです。
あと、田舎のほうに行っても、街と同じようにゴミ箱がどこにでもあって、落ちているゴミはなかったです。イベントのときなど少し残っていることもありますが、徹底的に捨てさせないように配慮されている感じでした。

牧野日本は、繁田さんがおっしゃるとおり、言葉の浸透やイメージ戦略に時間をとっている気がしますが、日常生活を転換させるような取り組みはまだ少ないと思いますね。

繁田そうですね。日本人は規律や周りとの調和を重んじますが、そういうことができる前提の場所になっていると思います。それができない人や文化の違う海外の人などがゴミをポイ捨てしてしまう。なので、そこをそもそもできないようなシステムの方がよいのかなと思います。

牧野日本全体でもそういったシステムがあるとよいかもしれませんね。

日本の課題と可能性:アートが拓く未来

牧野海外の視点を経て、日本の状況をどのように捉えていますか?

繁田オーストラリアに行く前から、水中と浜のゴミを確認したいと思っていましいた。実際ゴミはほとんどなかったです。理由は海流だと思います。日本海側は特に、ゴミのたどりつきやすい場所です。地球規模の課題が、その土地の性質上、日本に集中しているということです。だからこそ、日本だからできるアクションがあるはずです。水産資源も豊かですし、マイナスからプラスに変える力のある国だと思います。

牧野多くの人はその現実に気づいていないかもしれません。

繁田その通りです。特に都市部に住んでいると、そうした現状に触れる機会は少ないです。夏に海水浴場が綺麗なのは、シーズン前にボランティアの方々が清掃してくれているから。まずはこの現実を「知る」ことが第一歩だと思います。

牧野その「知る」きっかけとして、アートができることは何でしょうか。

繁田私は、芸術はエンターテインメントの一つだと考えています。「こうしなさい」と規範を押し付けるのではなく、楽しいことから知ってもらい、アクションに繋げてもらう。その流れが、みんながハッピーな状態でいられる一番の方法だと思うんです。
アート作品に触れることを通じて、「面白い」「きれいだ」と感じてもらう。そのポジティブな感情が、「じゃあ少しプラスチック製品を減らしてみようかな」というような、自発的な小さな行動のきっかけになればと願っています。

牧野ちなみに、思い入れのある場所や生き物ってありますか。

繁田よく描いていますが「ザトウクジラ」です。奄美大島で初めて出会った海洋生物で、存在感に感動しました。「ウミガメ」もですね。沖縄の本当や離島、オーストラリアでも出会いました。象徴的な生き物ですよね。ブイのアップサイクルアートなど、ウミガメが魚網に引っかかっているところを描いたこともあります。

牧野素晴らしいです。場所だとどうですか。

繁田来年あたりはフィリピンにもいきたいと思っています。情勢もそうですが、海洋環境が良くないと聞いているので、見に行ってみたいと思います。沖縄、館山も好きですし、福井はターコイズの住んだ海で夕日が本当に美しくて…、福岡も良かったし、長崎も、地元の海も…。オーストラリアの水中も珊瑚礁が素敵でした!日本は豊かな海しかないので、みなさんいろんなところに行ってほしいです。

牧野海は場所によって違う面や個性がすごくありますよね!

繁田オーストラリアでは、ワニの影響で近郊の海には潜れないんです。日本は砂浜からすぐ海へ出られる。だから水産資源も豊かなんだと思いました。守るという言い方はおこがましいですが、そうした日本の海の豊かさを守っていけたらいいなと思いました。

牧野海外に行かれたからこそ、気づかれた素晴らしい視点ですね。

「巡り巡る音楽祭」に向けて:触れて、感じて、楽しむ

牧野最後に展示やワークショップに来てくださるお客様へのメッセージをお願いします!

繁田展示については、ぜひ、触ってください。展示物って「触ってはいけない」というイメージがあるかもしれませんが、私の作品はぜひ触れて、感じていただきたいです!これが元はペットボトルだったのか、こんなに綺麗なものがゴミだったのか、という驚きやギャップを感じていただけたらと思います!

繁田ワークショップに参加してくださる方については、童心に帰った気持ちで楽しんでください。大人の皆さんには、子どもの頃に戻ったような気持ちで自由な発想を楽しんでほしいです。お子様たちには、思いっきり、お洋服が汚れない程度に楽しんでいってください。使い古した歯ブラシなど、思いっきり使っていい道具を用意していきますので、好きなように、心の赴くままにペイントを楽しんでください。

牧野貴重なお話。ありがとうございました!

繁田ありがとうございました!

あとがき

「自分たちの生活を豊かにするために生まれてきたはずなのに”海洋ゴミ”と言われてしまうもの」それに「新しい役目を与えて命を吹き込む」という言葉が印象的でした。展示・ワークショップでみなさんもぜひ、触れて、感じてください!

巡り巡る音楽祭「冬」
2025年12月21日(土)12:30-15:30頃
at CREATIVE BASEMENT EXPRESSION

■ 客演:トワイライトトロンボーントリオ
(今村岳志、東川暁洋、丸田和輝)

■ 出演:深海合唱団
特別出演:深海合唱団キッズコーラスメンバー

■ ワークショップ
「海洋ゴミを宝物に生まれ変わらせよう!」講師:繁田穂波
「ビーチの砂からマイクロプラスチック探し」ガイド:深海合唱団ビーチクリーン部

■ 出展
泡立て体験ができるUSS(アス)POP UP STORE
by 肌と地球を守るスキンケアUSS by papawash

■ 展示
ブイ(浮き玉)アートと海洋プラスチックの空間装飾

● 入場券
¥500 for 海洋プラごみ: 4,000円
1% for ocean:前売り 3,500円 / 当日 4,000円
学生・障がい者割:前売り 3,000円 / 当日 3,500円
小学生入場券(要保護者同伴):前売り 1,500円 / 当日 2,000円
未就学児膝上無料

入場券の購入はこちらから:
https://t.livepocket.jp/e/megurimeguruongakusai-winter

ライター:misa