2025年12月21日の巡り巡る音楽祭「冬」に寄せて、”巡り巡るマガジン”が誕生!
第2回目は、うみ博や「こどもわーく」の企画・運営を手掛けるアクトインディ株式会社 上野祐一朗さんと野呂美紗貴さんに、お話を伺いました。

上野祐一朗氏
プロフィール
Yuichiro Ueno

「お仕事体験プロデューサー」として、全国の子どもたちにさまざまなお仕事体験の企画・運営に携わる。自身も7歳の息子と5歳の娘と一緒に、いろいろな海や山、自然での体験を楽しんでいるパパ。

野呂美紗貴氏
プロフィール
Misaki Noro

お仕事体験のレポート担当として発信を行ってきた。今年度から体験の企画・運営にも携わる。自然の中で子ども達とのびのび過ごすこと、自然を相手に仕事をする人のかっこよさを間近で見ることが喜び。

https://actindi.net/

石山ゑり
Eri Ishiyama

牧野くみ
Kumi Makino

ワークショップのきっかけ

石山今回、深海合唱団にお声かけいただいたきっかけを教えてください。

上野さん(以下敬称略)元々「海のお仕事体験」は5年ほど続けています。最初は漁師さんや水族館といった分かりやすい仕事から始め、2〜3年目からは港の物流や研究といった、少し専門的で硬い分野も増やしてきました。

上野そして今年、野呂が本格的にチームに加わったタイミングで、「海の仕事にはまだまだ広がりがあるよね」という話になり、「芸術・文化・伝統」といったテーマはこれまで手掛けてこなかったことに気づいたんです。海はもっと多面的なはずだ、という考えから音楽や芸術の分野を模索し始めたのが、今回の企画の出発点です。

野呂さん(以下敬称略)新しいテーマとして「芸術・アート」があったので、「海 音楽」などのキーワードで検索し、どんな方々が活動されているのかを探すところから始めました。

石山たくさんの団体さんたちの中から見つけてくださったんですね。

野呂そうですね。5〜60の団体を見つけて、その中でも、深海合唱団さんのホームページは、目に飛び込んでくるような魅力がありました。ウェブサイトを拝見するうちに、インタビュー記事や活動レポート、そして何より写真の一つひとつにハッとさせられ、どんどん引き込まれていきました。

野呂活動が非常に多面的で、例えば、単なる環境活動に留まらず、そこから生まれた感情を音楽で表現し、参加者と共に深く思考する、といった点に強く惹かれました。「ぜひ一緒に何かできたら嬉しい」と感じ、ご連絡させていただいたんです。

仕事体験:「本物」に触れる

野呂最初にご相談した時、まさか子どもたちがステージに立てるとは思っていませんでした。コンサート開催にあたっての裏方、例えばチケットのもぎりのような、その「場」を作るお手伝いをさせてもらうのかな、と。

石山そうでしたよね。

野呂ですから、深海合唱団さんから「曲作りから参加して、一緒にステージに立ちましょう」というご提案をいただいた時は、本当に驚きましたし、そこまでさせていただけるなんて、と感謝の気持ちでいっぱいでした。

▲うみ博2025にて

石山私たちも、まさかこのような機会をいただけるとは思っていませんでした。これまで子ども向けに特化したイベントを行ったこともありません。ビーチクリーンに子どもたちが来てくれることはありますが、あくまで大人向けの活動ですし、ライブに小さいお子さんが来てくれることはあっても、子どもを意識した内容ではないので。そもそも、ワークショップ自体が初めての経験で…

上野私たちのプロジェクトに参加してくださる事業者さんの7割は、子ども向けのイベント経験がありません。むしろ、経験がない方が良い場合が多いんです。

牧野そうなんですか?

上野はい。テーマが「仕事」なので、無理に子ども向けにアクティビティとして楽しませようとするよりも、普段やっていることをそのまま見せて、話してもらう方が、かえって「仕事感」というリアルさが伝わるんです。

石山初めは、私たちでいいだろうか、何を用意したらいいんだろうと考えたりしました。でも、お話を伺っているうちに、いい意味で何も考えずに、子どもと対等に、メンバーが増えたと思ってやれればと思います。キッズコーラスメンバーとして迎えたいと思います。

▲うみ博2025でのステージ

上野リアルな体験は、良い意味での緊張感が生まれます。例えば、漁師さんだと、「子どもなんか知らねえよ」という感じですが、それでいい。船の上で危ない時は「危ねえぞ!」と本気で叱ってくれるんです。

石山大事なことですよね。

上野はい、そしてそれが子どもたちにとって貴重な体験になるんです。実際に保護者の方から、「大人に本気で怒られたことがなかったので、良い経験になりました」というメールをいただいたこともあります。

牧野過去のこどもわーくでは、溶接体験など危ないのではと思うような体験もされていましたよね。

上野テーマは「本物」です。子どもたちの純粋な喜びを目の当たりにして、回を重ねるうちに「自分の仕事でこんなに子どもが喜んでくれるなら、もっとすごいものを見せてやろう」と、大人たちの側が奮起するんです。

石山はじめから溶接を体験できたわけではなかったのですね。

上野そうなんです。溶接や40トンのクレーン操縦など、最初は見学だけでしたが、「子ども用のヘルメット買っといたから」とか受け入れ先の方が言ってくださったりして、今では子どもたちも体験できるようになりました。

野呂大人が本気で向き合うと、子どもたちもそれを敏感に感じ取って、自然と集中し、真剣な態度になります。「やらなきゃいけない」ではなく、教えて欲しいとかやりたいといった気持ちから自然と没頭していくんです。

▲インタビュー後に開催されたワークショップ

上野裏にある想いとか子どもにはしっかりと伝わります。何か想いを持ち帰ってもらえたらいいなと思います。

石山今回のワークショップは、「全3回」という連続講座ですが、そういったことはこれまであったんですか。

野呂いえ、今回が初めてです。通常は半日で体験するプログラムなんです。今回、音楽というテーマで「仕事」を伝えるには、曲作りから練習、そして本番までの一連のプロセスを体験してもらうことが不可欠だと考えました。

石山私たちも3回の中で関係を積み重ねながらできることがうれしいです。

上野今後は船の設計から機関士の仕事までのように、シリーズで体験できるような教室を作りたいと考えています。この連続講座は初の挑戦です。海と音楽が掛け合わさることで、どんな子がきてくれるのか、どうなるかドキドキしています。

▲インタビュー後に開催されたワークショップにて

音楽の仕事:仕事と趣味の境界線

石山音楽のお仕事体験も初めてですか?

野呂そうですね。芸術系で写真家やホスピタルアートの体験はありましたが音楽は初めてです。

上野正直に言うと、今年の初めに「芸術」というテーマを掲げた時、私たち自身が「芸術の仕事って一体何だろう?」と悩みました。これまでは、誰が見ても分かりやすい「仕事」を扱ってきたので。

牧野芸術って、収入とか仕事と結びつきづらいジャンルですよね。

上野これまでは、わかりやすい仕事だったので、だからこそ、最初は現場のチケットもぎりのような裏方作業をイメージしていたんです。

野呂「好きなこと」の延長にあるとは思うけれど、趣味とは違う世界のはず。その境界線はどこにあるのだろう、と。音楽が好き、海が好きって思っても、それを仕事にするって、どうなんだろう。それぞれのストーリーがあると思うので、子どもたちにはそこに触れて欲しいなと思います。

上野深海合唱団さんは、なぜ、音楽にして発信してみようと思ったんですか?

石山メンバーそれぞれの想いがあると思いますが、深海合唱団としては、音楽でしか伝えられないことがあると考えています。海の環境問題などといった硬いことを、関心がない人たちに興味を持ってもらうためには、音楽やアートがわかりやすいのではないかと思って活動しています。

上野深海合唱団のメンバーのみなさんは、それぞれ別でお仕事や個々の活動もされている中で、時間を使って音楽で発信しようとされている情熱がすごいなと思っています。

石山音楽業界は特に、仕事と趣味の線引きが曖昧かもしれません。私は、お金を払って誰かがステージを観に来てくれるのであれば、それは「お仕事」だと思っていますが、いろんな考えの人がいると思います。

牧野普段何気なく、「仕事」や「音楽」と言っていますが、人によって定義が違っているのかなと思います。音楽って、「曲になっていないといけない」のか、「波の音って音楽ではない」のかとか。なので、今回「音楽」とは、「仕事」とは、ということも一緒に考えられたらいいかなと思います。

「好きを仕事に」だけじゃない:未来への「種まき」

上野これまで、農業や林業の体験にも携わってきましたが、この5年間、海の仕事に関わる方々と接してきて強く感じるのは、海の世界には「好きなことが、そうしようと思わなくても自然と仕事になっていった」という人が非常に多いということです。海では自分で仕事や肩書きを作ってしまう人がたくさんいる。それがすごく面白いと感じています。

牧野私も水産庁に少し関わっていますが、海は本当に多面的です。同じ海でも、水産庁、海上保安庁、環境省、さらには国境を接する外務省まで、様々な立場の人々が関わっています。

▲うみ博2025にて

牧野農業や林業と違うのが、他の国と接する可能性があるという点で、世界へのアクセスのしやすさがあるのかもしれません。かつて港が文化の入り口だったように、多様なものを受け入れながら、新しいものを創り出す土壌があるように感じます。

石山農業、林業は、自分の土地の範囲が決まっていますが、海は共有のものということでもありますよね。

上野それと、海に関わる人たちは、皆さん包容力が大きい。海そのもののように、大したことで揺らがないというか、「海はそういうものだから」ってどっしりしているんです。何が起きても大丈夫だという安心感が強い気がします。

石山私たち深海合唱団で考えると港で仕事をしているわけではないです。なので、直接的には海の人間とは言いづらいかなと思いますが、海に関わる多様な仕事として考えてくださっているんでしょうか。

上野日本財団自体の活動もめちゃくちゃ海に行ってほしいとか、海を好きになってほしいということでもなくて、海と関わっているという気持ちが芽生えてくれたらいいなと思っています。

石山いろいろな関わり方がありますよね。

▲夏至の巡り巡る音楽祭での、こんぶの足湯

上野それこそ、海の絵を描いて、日常の中で、海に想いを馳せるということでもいい。めちゃくちゃ好きでなくてもよくて、海との関わり方が広がっていってほしいところで、幅広いお仕事で考えています。

牧野めちゃくちゃ好きじゃなくてもいいということに私も共感します。「好き」というエネルギーは、実はすごく脆くて不安定なものだと私は思っています。好きだからやる、では、好きじゃなくなったり、結果が出なかったりしたらやめてしまうのか。

上野まさにその通りですね。

牧野仕事とは、むしろ「あり続ける」こと。静かだけれど持続的なエネルギーで関わり続けることで、世の中が成り立っている。そのことに気づくのが大切ではないでしょうか。

上野最近は「好きを仕事に」ということで、私たちも「好き育」という事業を進めています。ただ、一方で「好きが見つからない子はダメなのか?」という問いも生まれる。好きを仕事にすることを応援しつつも、それが全てではないというメッセージも伝えたい。その伝え方の難しさを感じています。

石山大人でも、好きなことが見つからない、という悩みを感じている方もいますね。

上野子どもの頃の体験は、すぐに何かに繋がらなくても、後々の人生のどこかで「種まき」になるんじゃないかと。このワークショップが、子どもたちにとってそんな「種」の一つになればいいなと思います。

野呂好きなものをまっすぐ続けて形にしていかないと行けない、となるとつらいですけど。大人の話を聞くと、むしろ、昔は海が嫌いだったけど海の仕事にしている、という人もいますし、まっすぐ仕事にたどりつくわけではないと子どもたちに知ってもらいたいなと思います。

ワークショップへの期待:個性や経験が混ざり合う場に

野呂このワークショップは、参加者一人ひとりの個性や経験が「材料」となって、みんなで一緒に何かを創り上げていく体験になると思います。

牧野そうですね、参加者一人ひとり、どんな理由や目的で参加しているかもそれぞれ違いますよね。

▲インタビュー後に開催されたワークショップにて

野呂「これが間違い」とかそういうものはなく、子どもたちの「やりたいこと」や才能が混ざり合って、最終的に何ができるのか。それが、新しい「お仕事体験」の形になるのではないでしょうか。

上野全3回という形式も、子どもの成長を見る上で非常に楽しみです。1回目で緊張がほぐれ、2回目にはその子のキャラクターが見えてくる。これまでも、最初は挨拶もできなかった子が、最終日には心を開いてくれたり、発表会で堂々と喋れるようになったりする姿をこれまでも見てきました。

石山感動しそうです。

上野3回も会えば、きっと大きな変化が見られるはずです。
そして、ステージに立つことって、大人でも数少ない体験なので貴重な経験になると思います。

石山私たちも、子どもたちからたくさんの刺激をもらえると思うんです。よくライブでお客さんに歌詞のアイデアを書いてもらうんですが、子どもたちから「何それ!?」と驚くような、予想もしない言葉がたくさん出ます。

▲エコルフェスにて、こどもたちが書いてくれた歌詞

牧野子どもたちの発想力が楽しみです。

石山子どもの時にしか出せない「声」というものもありますよね。身体的な特徴だけでなく、子どもたちの歌声には特別な響きがある。今回のワークショップでは、私たちが子どもたちと一緒に作っていくことを楽しみたいです。

石山、牧野本日は、貴重なお話をありがとうございました。

上野、野呂ありがとうございました!

海のお仕事体験「こどもわーく」は、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる “日本財団「海と日本プロジェクト」” 一環としての取り組みです。

▼第一回目のワークショップの様子はこちら
https://www.instagram.com/p/DRt_PnGk7bz

あとがき

このワークショップで、子どもたちが、何を感じて、どのような音楽を生み出すのか、楽しみです。巡り巡る音楽祭では、子どもたちと作った曲を披露します。ぜひ、お聞きください。

巡り巡る音楽祭「冬」
2025年12月21日(土)12:30-15:30頃
at CREATIVE BASEMENT EXPRESSION

■ 客演:トワイライトトロンボーントリオ
(今村岳志、東川暁洋、丸田和輝)

■ 出演:深海合唱団
特別出演:深海合唱団キッズコーラスメンバー by こどもわーく

■ MC:木村洋平(エシカルSTORY代表・編集長)

■ ワークショップ
「海洋ゴミを宝物に生まれ変わらせよう!」講師:繁田穂波
「ビーチの砂からマイクロプラスチック探し」ガイド:深海合唱団ビーチクリーン部

■ 出展
泡立て体験ができるUSS(アス)POP UP STORE
by 肌と地球を守るスキンケアUSS by papawash

■ 展示
ブイ(浮き玉)アートと海洋プラスチックの空間装飾

■ CAFE
南瓜珈琲(かぼちゃこーひー)、かぼちゃスープ by 夜明け前

● 入場券
¥500 for 海洋プラごみ: 4,000円
1% for ocean:前売り 3,500円 / 当日 4,000円
学生・障がい者割:前売り 3,000円 / 当日 3,500円
小学生入場券(要保護者同伴):前売り 1,500円 / 当日 2,000円
未就学児膝上無料

入場券の購入はこちらから:
https://t.livepocket.jp/e/megurimeguruongakusai-winter

ライター:misa
写真:アサノジュンコ