第6回目は、加藤千絵子が「おさかなマイスター」の大貫圭さんにインタビュー。前編では、大貫さんが「おさかなマイスター」になるまで、魚食について伝えたいことなどを伺いました。
大貫圭さん
プロフィール
Kei Oonuki
料理家、日本おさかなマイスター協会所属。
橫浜中央卸売市場を中心におさかなマイスター出前授業を展開。地元湘南のFMラジオパーソナリティやミニコミ誌で魚食にまつわる情報発信を行う。
http://www.osakana-center.com/meister/top.html
加藤千絵子
Chieko Kato
お魚屋さんの前に立っていた
ちえこはじめまして!今日はよろしくお願い致します。早速ですが、まず最初におさかなマイスター歴は何年でしょうか。
大貫さん(以下敬称略)12年になります。(おさかなマイスター講座の)第3期です。コロナの関係で停滞していますが10期以上輩出しているので、一応古株になりました(笑)。
ちえこきっかけは何だったのでしょうか?
大貫基本的にはお魚が好き。家は西湘(せいしょう)と呼ばれる湘南海岸の西側で、海岸まで歩いて10分という環境です。小さい時から近所のお魚屋さんには新鮮なお魚がいっぱいあるようなところで育ちましたが、時代と共に激減しました。
大貫食べ方を知らない子や知らないお母さんが増え、おいしいお魚が手に入りにくくなったと感じていた時に、新聞でおさかなマイスターの記事を見つけて、楽しそうだと思ったのがきっかけです。
ちえこ本当にお魚が好きなんですね。
大貫はい、小さい頃から好きで、お魚屋さんの前に立ってたような子でした(笑)。
ちえこ私は逆で海の近くに住んだことがないし、連れていってもらっても「楽しくない、早く帰りたい」と思っていたんです。父は素潜りをしていて、本当は砂場で遊びたいのに岩場は全く楽しくなかった。
大貫興味が湧かなかったんでしょうね。同じ環境、同じ家族でも姉はお肉が好きでしたから。海の近くに住みたいとは言っています。
ちえこそれはわかります!海は好きなんですけど、魚との付き合い方が私はわかりません。大貫さんのお魚に対する愛情とか、何に魅かれるのかということがすごく知りたいです。
大貫食への興味ですね。同じ環境で育っても私と姉のように違いますし、私はお魚を煮ると頭や目玉のまわりがおいしいと思う。でも私の時代は父の所へお頭(おかしら)が行きます。なのでお頭が欲しいから小さい頃から父の側にちょこんと座っていたり。お魚屋さんでお刺身を取った後の頭の部分が欲しくて立っていたりしました。
「食」としてのお魚
ちえこ「食」としての魚に魅かれたということですね。私にはそういう出会いがなかった。
大貫そうですね。「お刺身」と言うと魚の種類だけお刺身の種類がある。煮ても焼いても、魚の種類だけ違う味があるのも魅力です。
ちえこなるほど!考えたこともなかったです!魚を写真に撮ってSNSに上げてる子が身近にいて、ライフスタイルに興味はあったんですけど、「食べたい」という欲求と結びついていませんでした。だから魚とどう付き合っていいのかが今までわからず生きてきたと実感しました。
大貫わからないと、魚を見ても「捌いたらゴミが大変だろうな」が先にきちゃうんですね。
ちえこそうです!
大貫私の場合は捌けるから、釣った後自分で捌く体力的な余裕がない人や余ったお魚を持った漁師さんがうちに捌いてもらいに来ます。「ご近所にも分けたら」なんて話しているうちにいつの間にか一箱分くらいになっちゃう(笑)。
ちえこすごいですね!その一箱の魚は全部ご自身で捌くのですか?
大貫はい。自分で捌ける近所の人には丸で渡して、それ以外の人には捌いて食べられる状態にしてお渡ししています。
ちえこそれは苦じゃないんですか!?
大貫もちろん大変ですし市場の人のようには上手ではないけれど、食べられる状態にします。Facebookなどにそれを投稿すると魚をくれた人も喜んでくれます。
魚食のこと
ちえこ都会育ちなので海は遠いところへ出かけるもので、お魚は既に切ってスーパーに並んでいるものという認識でした。大貫さんが魚食に対して具体的に伝えていきたいことはありますか?
大貫だんだん長寿社会になって、肉は消化するのに時間がかかります。日本人は縄文時代からずっと魚介類をたんぱく源として摂ってきたので、私達の体に合う栄養素だと思っています。それを子供たちが知らないのはもったいない。魚は私達脊椎動物の祖先で、それを知ることは自分の体のためにも大事なことだと思うので、小学校の講義などで伝えています。
ちえこ大事なことですね。
大貫また、一匹のままのお魚を食べたことがなく食べ方を知らない子もいます。フランス料理のコースが上手に食べられても和食の料亭でお魚が食べられないと、将来グローバル化した時や海外に出た時に自国の文化を紹介できない。日本の文化、和食の文化の食べ方をもっと知ってほしいし、魚食は直接的な栄養だけではなく心の栄養や文化だと思っています。
ちえこ気になって体のことや自然療法など勉強したことがあり、食材を丸ごと摂るのが体にいいという考えを知りました。お肉はそれができないけど魚なら可能ですよね、ただ頭でわかっていても実際の生活の中で活かすのが大変。
大貫料理教室では“家庭のごはん”を教わることが少ないですよね。アジは内臓とウロコの他は食べられない部分はない。骨せんべいも、油を使わなくても電子レンジでできます。
ちえこそうなんですね!
失敗したっていいじゃない
大貫それに料理教室は失敗した時のことを教えてくれません。私が教える場合は、上手にできたものはお刺身に、身がぐちゃぐちゃになってしまった方にはつみれなどを提案しています。おさかなマイスターとして草の根的な運動ができたらと思っています。
ちえこ手作りのつみれ、おいしそうですね!簡単で楽で時短をしたい自分と本質を求める自分で葛藤していますが、折り合いを見つけていきたい。日本人が大切にしてきた漁業や食事は忘れちゃいけないと強く思いました。
大貫小学校での講義の最後に、一匹丸ごとのアジを食べてもらっています。はじめは食べたことがなかったり気持ち悪くて触れない子もいますが、きれいに中骨を外せると大騒ぎになる(笑)。授業参観で親御さんに文句を言われたこともありましたが、子供がきれいに食べて喜んでいる様子を見て後にお礼を言われました。
ちえことても素敵な活動だと思いますし、たくさんの方に知ってもらいたいですね。
大貫失敗するのは普通だから、お母さんたちはそんなに身構えないで。いいじゃないですか、つみれもおいしいですよ。
おさかなのすゝめ(後編)へつづきます。
11月2日(水)公開予定です、どうぞお楽しみに!
日本おさかなマイスター協会
さかなをおいしく、賢く食べるために、さかなの魅力を伝えるために
魚介類の旬、栄養、産地、漁法、調理、取扱方法などを学び
さかなの魅力や素晴らしさを伝える「さかなの伝道師」です。
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水産女子とは?
まだまだ男性社会である漁業・水産業の現場で活躍する女性たちのことで、水産庁の立ち上げる「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」にメンバーとして参加し、日々の生活や仕事にまつわる情報を社会に広く発信しています。
活動を通して、女性にとって働きやすい漁業・水産業の現場改革や仕事選びの対象としての漁業・水産業の魅力向上を後押ししています。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kenkyu/suisanjoshi/181213.html