第2回目は、深海合唱団のいとうちえが、さかなメデリスト・水島綾子さんにインタビュー。
後編では、「さかなメデリスト」とはなんなのか? お話を伺いました。
前編「海藻スイーツとイソムリエ」はこちら
水島綾子さん
プロフィール
Ayako Mizushima
五感とココロを総動員して魚を愛でる「さかなメデリスト」。海藻スイーツの製造販売や、磯を楽しく学び、正しくたしなむ「イソムリエ」等、個性的な活動を展開中。
https://sakanamedelist.com/
いとうちえ
Chie Ito
さかなメデリストのこと
ちえ「さかなメデリスト」になろうとしたきっかけは?
水島大人になって、こんなに海に触れあえない?こんな人生?ってフラストレーションでした。そういうのが悶々と10年くらいあって。魚や海と関われなくなってしまったことが嫌で、日常にどうにか魚を組み込めないか。それを考えた末がメデリストです。
ちえ自分で海に近づいたんですね。
水島そうです。水族館に行くだけじゃなくて触りたいんだよね、って。発信してると繋がりも少しずつできました。最初はお菓子と魚は、あまりにも違い過ぎて重ならないと思っていました。やってみて気づけるところがたくさんあったし、始めてなかったら深海合唱団の皆さんとも会えてなかったです。
ちえ会えてよかったです!
魚を愛でる10か条
ちえさかなメデリストの「魚を愛でる10か条」は1からスラスラできたんですか?
水島10か条にしようと思いついてからスラスラ、でしたね。水族館行くと仲間とはぐれちゃうんですよ。ずーっと同じところにいたりして。そういう楽しみ方をする人が他にいたら繋がりたいというのがあって、それをどう発信するかなっていうので10か条ができました。
「魚を愛でる10カ条」
- 視覚:3秒以上目を合わせる
- 視覚:真正面から見つめ合う
- 視覚:おなか側も見る
- 視覚:口をそっと開いて奥まで覗く
- 触覚:尻尾や胸ひれ背びれを開いたり閉じたりする
- 聴覚:気になる部分を愛情込めてペチペチ奏でる
- 嗅覚:どこでも好きなパーツをクンクン嗅ぐ
- ココロ:エラの内側をじっくり観察…何を感じますか?
- ココロ:どうやって食べたら一番美味しいだろう?と想像を膨らませながら調理する
- 味覚:命を譲ってくれた魚と命懸けで獲ってくれた人に感謝して美味しくいただく
水島愛でる10か条はココロに作用するというか、その人自身が魚とどう向き合いますか?どう感じますか?というところに向けています。それを感じて海に興味を持った時、アクションの一つ、選択肢の一つとして海藻スイーツやイソムリエがあるんだと思います。
ちえワークショップやメデリストを一般の方と一緒にやってみて、おもしろさなどを体感してもらえましたか?
水島年齢問わず「うわぁ!」っていう驚きがありました。反応としては「よしよし」って思います(笑)。びっくりするとか笑うとか驚くって、大事な要素だと思っています。魚のエラとかって見ないじゃないですか。
ちえ見ないですね。
水島人間にエラはないし、見れないわけだから。それは見た方がいいと思う。でもそれ魚屋さんでやったら絶対怒られるから、愛でる会に来て一緒にエラ開けませんかって(笑)
やってみました
ちえ私、家でやってみました!スーパーでイサキを買ってきて、絵を描いてみたんです。
ちえ3秒以上目を合わせる、正面から見つめあうとか、口を開いて奥までのぞくとか、ヒレを開いてみたりとか…。イサキって黄色がきれいな魚なんですね。ヒレの間はきれいなレモン色。あんまりよくよく見たことなかったです。
水島スーパーで見ると、ヒレも閉じちゃってるので地味なんですよね(笑)
ちえエラも描いてみたんですけど、「見たことない場所見ちゃった」って感じがしました。覗いちゃったなって。ウロコや内臓取ったりすると、こんなにウロコあるんだ!って。すっごい飛ぶし。
水島そう!2、3日掃除機かける度、「あっ」ってウロコ見つける(笑)
ちえ魚はよく食べるけど、じっくり見てからっていうのはなかったです。魚を正面から見てると、向こうからも見られてる感すごくて。
水島それそれそれ!
ちえ「見てんなー・・・」と思いながら(笑)。生き物だなって感じがすごくするし、愛着湧きますね。横で見てる時の目と正面で顔感がすごいっていうか。
水島顔感があるんですよ!生き物対生き物になる。おもしろさとか驚きとか恐怖も含めて、個人の体験・経験になる。10か条はそういうことをしてもらいたくて。個人として魚という生き物や、魚を食べるということを感じる機会。
ちえそうですね、人がやってるの見てても、この感じはないかも。
水島どこに食らいつくかは人によって違います。ずっとおなかばっかり見る人もいれば、内臓、エラを見る人も。口開けるとエラの奥まで見えるので、「ギャー!」って言いながら見てるお母さんもいます。
ちえイワシとかすごいですもんね。口開けた時も、開けるためのシワみたいのが入ってて、がばっと開けるとここが伸びる、みたいな。
水島そのためのパーツなんだなって。横から見ると「何だこのぴょっとしたやつ」っていうのが、開けると「こういう作りのための部品なんだね」ってのがわかる。男の子がハマるのはなんとなくわかる気がします。車とか好きな人はハマるんじゃないかな。
ちえ観察とかおもしろいですよね。やってみてよかったです。このイサキは塩焼きにして美味しくいただきました。
ワークショップの今後
ちえメデリストのワークショップでこれから取り組みたい魚はありますか?
水島バリエーションを広げるのもいいんですけど、今考えてるのは、愛でる10か条を捌くまでやったらどうかなって。家庭でできるサイズで、その時にある旬の魚を捌けるところまでいけたらいいかなと。
ちえ手で捌くのもやっていましたよね。調理実習でイワシをやったことあって、指を入れるのが「うわっ」ってなったんですけど体験としてよかったと思います。
水島そう、アジはできないけど何でイワシは手でできるの?って、触ってみないとわかんないんですよね。身質の違いなどを体感するのが大事かなって。
ちえ自分で体験しないと、先ほどのひじきの事もメデリストも、わからないこといっぱいあるなと思いました。
コロナ禍の影響
ちえコロナ禍で、ワークショップ等のイベント開催ができなくなりましたよね。
水島そうですね、現場を体験するのって全然違うので、早くコロナが収まればいいなと思います。水産女子メンバーの田中淳子さんとは、昆布つながりなんですけど。お互いの職場とか関連する漁港とか訪ねあえたらいいねって。海産物っていろんなやり方や可能性があるなぁって思うので、実際やられてる方と情報共有したり、違いを発見したいです。
株式会社大成・田中淳子さんに聴く(前編)「昆活のすすめ」
水島でもコロナ禍で、環境のことが伝わりやすくなったかなっていう気がします。自粛で出かけなくなったら、自然環境がきれいになったというニュースがありました。人間の活動が自然に与える影響ってすごいんだなって、事実として認識されたタイミングだったので。
ちえニュースになっていましたね。
水島磯焼け(前編を参照)のことを、迷ってたんですよ最初。そういうのをお菓子に全面に出して食べてもらえるのかな?って。でもそのために作ったからちゃんとパンフレットに載せようって思いました。コロナを通じて、世の中の変化に合わせて発信の仕方も変えたかな。
ちえ一人ひとりがちょっとでも何か変えたら、すっごく良くなることがいっぱいあると思う。
水島そうですね。楽しみながらいい方向に動かせたらいいなって。
ちえ「楽しい」や「おいしい」があると、「やらなきゃ」じゃなくて「やりたい」って思う。
水島食育って言葉にしちゃうと、抵抗があったり難しくなっちゃうのかなって思います。「魚を愛でる10か条」はココロに作用させる目的。合唱とかアートの分野って、まさにそうじゃないですか。ココロに作用させて、気持ちが変わって行動が変わればベスト。
水島でも間に合わないかもしれないからアクションから変えていかないと、という仕掛けで海藻スイーツがあります。「SDGsです」とか「磯焼けです」って言って買う人じゃなくて、かわいいからおいしそうだから買う人がいてくれたらいいかなって。
海のこと、これから
ちえ魚だけじゃなくていろんな食材も、「旬だから」とか「通年買えるけど今のトマトがいい」とか、実感して食べるのがおもしろい。水島さんがされていることはもっと深いことを感じてもらうためだと思うんですけど、生活の中でもちょっと想像すると近いことができるのかなって思いました。
水島今、これからやりたいことの準備をしています。コロナ禍は準備期間だと思って。お肉派の人が多いから、どうやったらもっと魚が溢れるようになるのかなって考えてます。コンビニで魚も売ってくれないかなとか、レトルトや缶詰でも増えてくれれば、魚にアクセスしやすくなる。
水島魚が溢れる世の中になれば、私じゃなくてもみんながメデリストになればと思います。みんなが興味を持てば、「面倒だな」とか「不便だな」ってのは改善されるんじゃないかな。出会い方が大事だから、楽しんでもらうためにさかなメデリストがあって10か条があるという感じです。偉いわけでも詳しいわけでもないけど、そこは遠慮したくない。「世の中に魚を!」って言おうよって思ってます。
ちえ世の中に魚を!
水島トレーサビリティ(※)って言葉知らなくても、お前どこから来た!?でいいと思う。どこで暮らしてた?こんな顔しやがって!でいいと思う。
※トレーサビリティ…追跡可能性。品質の信頼のため、いつ誰がどこで作ったかを明確にしようとする概念。
ちえこんな硬くてどこ守ってたんだって(笑)
水島そういう方が楽しいし、もっともっとってなる。その人の価値観や軸で知ったり行動が広がる。
ちえそうすると楽しくておいしいしみんなできるよって、ハッピーですよね。
海藻スイーツ
ひじきケーキやこんぶクッキーが気になった方はぜひこちらをチェックしてみてください。
海と魚と食をつなげる本屋「お菓子な本屋」
https://okashina.theshop.jp/
水産女子とは?
まだまだ男性社会である漁業・水産業の現場で活躍する女性たちのことで、水産庁の立ち上げる「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」にメンバーとして参加し、日々の生活や仕事にまつわる情報を社会に広く発信しています。
活動を通して、女性にとって働きやすい漁業・水産業の現場改革や仕事選びの対象としての漁業・水産業の魅力向上を後押ししています。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kenkyu/suisanjoshi/181213.html