第2回目は、深海合唱団のいとうちえが、さかなメデリスト・水島綾子さんにインタビュー。
前編では、水島さんが手がける「海藻スイーツ」のこと、「イソムリエ」としての活動についてお話を伺います。
水島綾子さん
プロフィール
Ayako Mizushima
五感とココロを総動員して魚を愛でる「さかなメデリスト」。海藻スイーツの製造販売や、磯を楽しく学び、正しくたしなむ「イソムリエ」等、個性的な活動を展開中。
https://sakanamedelist.com/
いとうちえ
Chie Ito
海藻スイーツのこと
ちえ今日はよろしくお願いします。今一番力を入れていらっしゃる活動はなんですか?
水島さん(以下敬称略)「海の宝!水産女子の元気プロジェクト(以下水産女子)」絡みで言うと、海藻スイーツです。「魚や貝をお菓子にできない?」という無茶ぶりというか軽い会話で出てきて(笑)。本業の焼き菓子のメインが野菜を使ったマフィンとスコーンなので、その流れで昆布とひじきをそれぞれ使って焼き菓子にしています。
ちえひじきパウンドケーキの写真を拝見して、おいしくするのって難しいんじゃないかと思いました。
水島そうなんですよ!昆布は簡単…ではないんですけど、ペーストから加工だからまだやりやすい。ひじきは、海から採ってきて浜で釜茹でしたものを取り寄せています。お菓子との素材としての距離感があるので試行錯誤。おいしくないと食べてもらえないし、自分たちも嫌だし。
ちえおいしくなきゃ嫌ってすごくいいと思いました!私も家でお菓子作るんですけど、ちょっと変化があると全然違うものができちゃうじゃないですか。海藻とか今までお菓子に入れたことないものを入れると、そりゃ難しいだろうなって。
水島水分もそうですし、塩分もあるんですよね。でも全くなくなっちゃうのもそれはそれでつまらないし、ひじきは目で見える形で残したいと思いました。
水島黒いのがひじきで、クルミやレーズン、ドライフルーツと合わせています。これを始めようと思ったのは、人から勧められたというのもあるんですけど、海が好きな人の裾野を広げたいから。
ちえ発想が面白いですよね。
水島海への入口としてお菓子ってありじゃないかな、と。全然関係ないジャンルなので。そこから話のきっかけや、何か繋がればいいなって。
ちえ昆布のクッキーもコロコロしていて見た目もかわいいですね。私はプロのレシピを見て作るばかりなので、自分で試行錯誤されるって大変だろうなと思いました。
水島お菓子は科学とまでいかないですけど、分量を間違えたら出来上がらない。海藻は毎年生え変わるし、収穫量も出来具合も違うから今後の課題です。
ちえ毎回調整が必要なんですね。
水島ちなみに日本人は海藻を昔から食べていたためか、ほとんどの人が海藻を消化する酵素をもっています。西洋では海藻の消化酵素がない方が多いので、海藻サラダなどそのままだと食べられない人もいるんです。
ちえそうなんですね!
ひじき漁のこと
ちえひじき漁体験のブログを拝見して、想像以上に大変そうだと思いました。体験して意識は変わりましたか?
水島変わりましたね。温度とか現場の空気とか感じるって大事だなって。天候によっても思いっきり左右されるし、予定していても「明日は風があるから」って船を出さないこともあります。ひじきは水揚げしてじゃぶじゃぶ洗った後に浜辺で一晩蒸すんですね。
ちえ一晩!
水島それもマニュアルとかルールがあるわけじゃないんです。先輩漁師さんから教わった方法を、やってみてダメだったらこっちでやってみるって感じで。
水島ノウハウの蓄積をその場で見て、それが食べ物に変化してゆく様を体感できて、ものすごい貴重な経験ですね。釜揚げして、洗って広げて干してを繰り返す。スーパーで袋に入って並んでるのからは想像がつかない。
磯焼けのこと
ちえひじき漁がきっかけで磯焼け(※)の問題に取り組まれたんですよね?
※磯焼け…海辺の海藻が減少して岩場ばかりになった状態のこと。「海の砂漠化」とも呼ばれる。
水島そのちょっと前から聞いて、言葉は知っていました。実際に漁師さんに教えてもらうと、「磯焼け大変なんです!!」って決して言わないけど、それぞれの考えでスタンスがあって。
ちえ切実な感じですか?
水島切実というか体感としてわかっていて、現実を受け止めていらっしゃる。自然と関わり合う覚悟の仕方が全然違うんだなぁって思いました。
ちえ磯焼けに関して、私達ができることってありますか?
水島磯焼けは認知度が低いので、否定されない程度のテンションで友達に話してみるなどが良いのかなと。ただそういうのは一過性になりがちで、特に今SDGs(※)っていう言葉が強いので、それに乗っかって変な方向にいかないようにしないといけないかな。
※SDGs…持続可能でよりよい世界を目指す国際目標
ちえこっち側で一人歩きして、「これやんなきゃ!これっていいことでしょ!」ってなっちゃうのは怖いですよね。コロナもそうですけど、どの問題も受け止めて自分にできることを考えるしかないですもんね。
水島自分ごとにするっていうことかな。海を経験していない方ももちろん多いじゃないですか。海に対してどう興味を持ってもらえるか、というのが今の私の立ち位置からできることなのかなと思います。「危険だ、大変だ」って騒ぎ立てる形じゃなくて、「おいしいから食べてみ?」から始めて、「海行ってみたら?」って。
ちえ私お菓子大好きなので食べてみたいって思ったし、今採れたものを大事においしく食べることは、私は海から離れてるけどできるかなって思いました。
磯のこと
ちえ水島さんは小さい頃から磯で遊んでたんですよね?
水島地元は横須賀で目の前が海って程近くはなかったんですけど、夏の楽しい思い出は海や磯がほとんどでした。ディズニーも行ったけど、自分の心に刺さったのは海でのたわいのない遊び。イソギンチャクつんつんしたりとか(笑) 。小さい頃の記憶だから余計に鮮烈なんですよね。本当に生き物がいる!しかも食べれるんだ!っていう衝撃。
ちえ私は子供の頃も、大人になってからも海ってたまに行くところなので、磯遊びをしたことがないし潮だまりを覗いたことがないです。イソムリエ(※)の記事を拝見した時に、場所によってこんなに違うんだって思ったから行きたい!
※イソムリエ…磯をたしなむプロフェッショナル~isommelier~イソムリエ。水島さん考案。
水島ぜひ!遊び方を知らないと行かないじゃないですか。海って、人によってはビーチや海の家で「ウェーイ!」ですけど、私にとっては磯なんです。
ちえカニいるような所とか。
水島そう。でもそれって昔の体験があるから楽しいって感じるけど、一切ないと子供に教えるとか一緒に行くとかできないし発想もない。とはいえ教育としてやるとつまんなくなっちゃうから、「イソムリエになりませんか?」っていう形で、海に対してこういう遊び方ができるよって。
ちえ私は海で遊び慣れてないので、気を付けなければいけないこと、注意点ばかり気になります。
水島自然相手なので、それは絶対忘れちゃいけないことだと思います。磯遊びガイドみたいのって探すと結構あるので、そういうのに一回行くと安心して遊べるんじゃないかな。
後編「さかなを愛でること」へつづきます。
2月9日(水)公開予定です、どうぞお楽しみに!
海藻スイーツ
ひじきケーキやこんぶクッキーが気になった方はぜひこちらをチェックしてみてください。
海と魚と食をつなげる本屋「お菓子な本屋」
https://okashina.theshop.jp/
水産女子とは?
まだまだ男性社会である漁業・水産業の現場で活躍する女性たちのことで、水産庁の立ち上げる「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」にメンバーとして参加し、日々の生活や仕事にまつわる情報を社会に広く発信しています。
活動を通して、女性にとって働きやすい漁業・水産業の現場改革や仕事選びの対象としての漁業・水産業の魅力向上を後押ししています。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kenkyu/suisanjoshi/181213.html